TA(Transactional Analysis)は、個人の内面にある心の構造やはたらき、人間関係や集団・組織で起こっている心理的なやりとりについて説明する心理学です。
人の心のしくみはどうなっているのか?人間関係はこじれたりうまくいったりすのはどのような状態なのか?会社など組織の中では何が起こっているのか?
これらの問いに対して、人が行うコミュニケーションや心理的な動きの典型的なパターンに名前をつけて整理整頓することで、わかりやすくするツールといえます。
TAの歴史と背景
TAを創始したのは、エリック・バーンというユダヤ系カナダ人です。彼は、マギル大学で精神分析を学び、精神分析医としてのキャリアを歩みつつ、TAの考えを彼の教え子と共に創り出してきました。
「実践から生まれた心理学」
バーンが最初にTAの基礎となる考え方を見出したのは、米国陸軍での経験でした。彼は精神科医として、第二次世界大戦に出生する兵士の精神分析を、1人数分で対応しなければならないという仕事を担当していました。彼は、25,000人にも登る兵士候補者の面接の経験を通じて見出した、人の反応のパターンをParent、Adult、Childと名前をつけることからスタートしました。これがのちに「自我状態」と呼ばれるTAの基礎の1つになる考え方となりました。
バーンが最初に行ったこのプロセスを観ても、TAは「科学」に基づくというより、「実践」「経験」に基づく心理学であり、直観をベースに、データを持ち寄ることで作られた心理学とも言えます。
「広い活用範囲」
TAの歴史から現れるもう一つの特徴は「対応領域の広さ」とも言えます。
バーンは同僚となった元教え子たちとの対話を好み、彼らとのやりとりをベースに理論を紡いできました。また、TAを共に盛り上げる同僚の他に、ゲシュタルト・セラピーを生み出したフリッツ・パールズや、発達心理学の巨匠エリック・エリクソンなどとも交流を持ち、理論を発達させてきました。その過程で、『Games People Play』という本が大ブレイクし、TAは人間性心理学の一つの領域としてその名を知られ始め、国際TA協会(ITAA)も、1964年にスタートしました。日本にTAの考えが伝わってきたのは、この頃です。
バーンは60歳という若さで1970年に亡くなってしまい、議論は少しずつ収束に向います。結果、1980年代に一度アメリカではTAが「飽きられて」しまいます。そして、その後のTAの発展は、主にヨーロッパが舞台になります。バーンの遺志とTAの哲学を継いだ実践研究者たちが、教育、組織、カウンセリングの領域にも応用範囲を広げ、地道に、そして継続的に理論を紡ぎ、積み重ねてきました。
現在では、社会構成主義の考え方を取り入れた「Co-Creative TA」や、関係性の観点を取り入れた「Relational TA」、組織論を中心とした「Systemic TA」など、他領域の理論の発達を組み入れながら、多様な実践研究者が様々な領域にTAを活用しています。
日本では今も、1960-1980年代に取り入れられた理論を中心にTAが展開されている様子です。シックスエイトのTAは、そういったクラシックな考えも大切にしつつ、現代社会の状況に合わせて発展してきた新しい理論も数多く活用しています。
TAの概念(一部)の紹介
自我状態(Ego States)
TAでは、人間を容れ物(ストレージ)と考え、そこに経験の記憶やその際の感情、経験からの教訓、他者の言葉などが蓄積されていくと考えます。その容れ物は3つあり、それぞれParent、Adult、Childと呼ばれています。それぞれのストレージにどのような要素が入っていて、それらが自分のものの見方や感じ方、考え方や行動にどのように影響しているのかを知ることで、セルフマネジメントにつながると考えます。
やりとり分析(Transactional Analysis)
主に、二者間のコミュニケーションについて分析していくときの考え方です。上述した自我状態の3つ(Parent、Adult、Child)にも関連付け、どのような自我状態から、どのような反応を期待して発言や行動をしているのか、その様々な組み合わせを定義しています。相手とのやりとりの状態やパターンを俯瞰して観ることができると、人間関係において何が起こっているのかを捉えやすくなります。
ゲーム分析(Games)
「やりとり」の中でも、非生産的で、いやな感じがして終わるものについて「ゲーム」と呼びます。組織の中での多くのやりとりは、この「ゲーム」が占めており、それが組織の効果性を著しく下げています。「ゲーム」は、親密な関係を目指すプロセスで起こってきてしまうものではありますが、それが起こっていることに気づくことで、本当に願っている関係性を実現する足がかりにもなります。
脚本(Script)
TAでは、人生早期における体験を土台にして、人が心理的に創り上げる「人生のものがたり」のことを「脚本」と呼びます。人は自分で無意識に紡ぎ上げてきているこのものがたりに沿って、自分独自のものの見方や行動、感じ方をしていくようになります。「脚本」は、そのものがたりのありように応じて、私たちをしばる要素にも、背中を押す要素にもなります。TAでは、まず自分がどのような脚本に基づいて世界を観ているのかを知り、そのものがたりが今の自分が望んでいるものなのかどうかを明確にしていきます。「脚本」は、グループや組織の単位でも紡がれるため、組織開発の際にこの考え方を応用することもあります。
パブリックストラクチャー(Public Structure)
組織を見立てる時の考え方で、「境界(Boundary)」がどこにあるのかを明確にし、その「境界」をまたいでどのような力が働いているのかを俯瞰して観ていくための枠組みのことです。組織内外に働く力や、それによって組織メンバーがどのような影響を受けているのかについて紐解く手がかりとなります。
プライベートストラクチャー:グループイマーゴ(Group Imago)
組織メンバーの心象イメージからグループや組織の状態を見立てる際に使用する考え方です。グループを構成するメンバーの心理的距離(Psychological Distance)や、誰がリーダーで、誰がリーダーではないのか、などの認識を図に表していくことによって、組織やグループの状態を捉えます。また、グループイマーゴには発達の段階と課題も定義されているため、メンバーが描くイマーゴがどの発達段階かを明確にすることで、その成長を促進することができます。